本のこと、はしること、山形県のこと。

本と本屋さんのことを中心に書こうと思ってます。走るのが好きです。山形県出身です。内容をちょっとづつ調整していってます。

『ポアンカレ予想』とジュンク堂天満橋店

仕事のことを考えてる。息苦しくなって、思考が止まる。頭が止まる。

生きている時間から、うまくいっている時間だけを集積しても、1日に満たないんじゃないか、と思う時がある。大抵の時間は停滞の中にいる。停滞は悪いもんじゃないけど、もう少しばかり、明るい未来が見えてもいいんじゃないのか、って思う。少年時代みたいに。

頭が止まってしまったので、YouTubeを開く。頭がグルグル動き出すように、とGurugle earth を検索する。
頭が止まってしまったら、世界が止まる。宇宙が止まる。

ヴィトゲンシュタインは、「わたしの世界の限界は、わたしの言語の限界」と言った。だから、いつまでもグルグルグルグル動かないと、世界の限界が目の前に来てしまう。

グルグル動く脳みそは、グルグル島にたどり着く。グルグル島は普通の街で、少しだけ時代遅れだ。みんなの持っているテレビはブラウン管だし、携帯電話は肩からかけている。
そのくせ、ブラウン管のテレビは、インターネットにつながっているし、携帯電話は永久電池で動いている。

グルグル島にはいくつも解決できない謎がある。島民はみなその謎を受け入れて生活している。けれど、やってくる人たちはグルグル島の謎に直面すると立ち尽くしてしまう。

例えば、絶対に追い抜けない亀がいたり、死んでいながら生きている猫がいたり、嘘つきしかいないエリアがあったりする。とにかく、解けないもので溢れている。

グルグル島の南は断崖絶壁になっていて、そこから誰も上陸できない。島一番の港は西側にあるが、船の数はそんなに多くない。宿が5軒、重要文化財ぎ25個、絶景ポイントは35ある。
観光地としての収入がGDPのほとんどを占める。
グルグル島には、一つの島があって、その島を囲むように川が流れている。島の中の島の名前はグルグルグルグル島という。グルグルグルグル島には、周囲を囲むように7つの橋が架けられている。その島には25個ある重要文化財の18個が存在しわ絶景ポイントは35個あるうちの30個を占める。
いわゆる、島の8割の価値がその島にはある。

それにもかかわらず、グルグル島には旅行代理店が一軒しかない。完全な独占企業だ。お金はたくさんあった。

その旅行代理店のオーナーは、ある時、有名な数学者に手紙を出した。

グルグルグルグル島への画期的な旅行を考えてる。それは、同じ橋を二度渡ることなく、旅行者を案内するという旅行なのだ。とても効率的だが、いくら考えても必ずどこかの橋を二度通らなければならない。なんとか、出来ないだろうか、という内容の手紙だった。

数学者は、ため息を吐く。
手紙をゴミ箱に捨てる。

わたしの脳みそは、崇高で気高い数学の問題に使うべきで、こんなくだらない世俗的な話に使うべきではない、

と。

それから絶えず、グルグルと頭を働かした数学者の名前は世に広まった。その度何度となく、グルグル島へ旅行した。けれど、島を散策しては、すぐに戻った彼が、一度もこの旅行代理店のことを思い出すことはなかった。

数年が経った頃、数学者は大きな問題とぶつかった。彼の頭は人生で初めて止まりそうだった。
彼は、世界が止まらないように、とグルグルアースを聞くことはできない。まだ、やくしまるえつこは生まれてなかったし、d.v.dだって当然生まれてなかった。

だが、彼はグルグルアースを聞くことができるようになる。ある一つの数式が彼を超え、時間を超え、距離を超えてしまったから。

とにかく、頭が止まりそうになった彼は、グルグル島へ迷い込む。
7つの橋を見て、ある日送られてきた封書を思い出す。彼は思う。
まだ、その旅行代理店は営業を続けているだろうか、と。
数学者はグルグル島で旅行代理店を探した。お店はすぐに見つかった。

お店には、両脇にしか髪を残していない初老の男性がいた。おそらく、彼が手紙をくれたのだろう。
数学者は話しかけた。

昔、この島の橋を二度渡ることなく、7つ渡れる方法を教えてくれ、と手紙を出しませんでしたか。

初老の男は目を輝かせる

なんと!著名な数学者のあなたが、わたしのことを覚えていてくれたとは、

と、椅子を出してくる。そして、座るよう促した。彼は勢いに押されて座り、初老の男からの眼差しを受けた。

未だにうまくいかないんですよね。

と初老の男は言って、グルグル島の地図を目の前に出す。数学者はその地図を見下ろした時、ゴミ箱に捨てた手紙が、今、頭を抱えている数学的問題と同じ問題であることに気がつく。
片手を口に持ってきて、彼は初老の男に伝える。

これはとても困難な数学的問題です、と。

数学者は立ち上がり、店を出て歩いた。グルグルグルグル島へ向かう。俯瞰して島を見ると7つの橋は全て見えた。一番遠い橋は、霞んでいた。一番近い橋はすぐそこにあった。

男は一番近い橋を渡る。グルグルグルグル、島を周り、いつの間にか夕刻になった。ふと、一つ答えが出てきた。この島を一筆書きで渡ることはできないのではないか、と。

数学者は、グルグル島のグルグルグルグル島をめぐる一筆書き問題、という名前で、Webに論文を掲載した。しかしすぐにロシアから反論がきた。

貴殿の論文、「グルグル島のグルグルグルグル島をめぐる一筆書き問題」につきまして、と言うタイトルのメールだった。数学者は嬉々とした気持ちでそのメールを開く。
恐らく、数学界史上、ナンバーワンの発見である、という賛辞。美しい論文に打つうっとりする賛辞が寄せられていると思った。

しかし、そこに書かれていた内容は、すでにこの問題がオイラーによって提唱されている、という事実を告げるものだった。数学者は驚いた。オイラーだって?いったいいつの時代の男なんだ、と。

数学者はインターネットを調べる。1736年にロシア連邦のカニーリングラード州の州都、ケーニヒスベルクにおける問題と同じであった。
男は驚いた。ひどく動揺して、メールの返信を書いた。
だが、世の中はすでに彼にとってよくない方向に進んでいた。
彼は盗作者となった。ニュース、学会で彼の名前は盗人のように扱われた。大学から呼び出され、論文の趣旨を聞かれた。彼は苦し紛れに答える。

もちろん、オイラーのことは知ってましたし、ケーニヒスベルクの一筆書き問題も知っていました。けれど大切なのはこの後です。この一筆書き問題、本当は、可能である証明を次でしようとしています。論文はすでに8割がた終わっています。まさか、こんなに早く皆さんが騒がれるとは思わずにいました。オイラーはすごいですね。

大学は、そうならそうと言ってくれたらよかったのに、と笑って答えた。一時間もしないうち、大学は声明を出す。

あと、一ヶ月もたたないうちに、この一筆書き問題の続編が出る。それが出れば、彼の言いたかったことは分かるはずだ。だから、それを楽しみにしていてくれたらいい、

と。
一ヶ月だって、と数学者は驚いた。
彼は再び、グルグル島へ向かう。グルグルグルグル島を回っていると、奇妙な感覚になる。

一ヶ月後、彼は一つの数式を発表した。それは一筆書き問題を解決する数式だった。
その数式は、宇宙を限りなく小さくした。僕と君の距離も小さくした。
宇宙は限りなく一つのものになり、あらゆるものに差が生まれなくなった。
彼は、やくしまるえつこd.v.dのライブとラフマニノフの演奏を同時に聞けた。むしろ彼が、やくしまるえつこであり、d.v.dであった。
彼は数学者であり、旅行代理店であり、大学であり、ロシアの反論者になる。彼は数式によって、何者でもなり得るようになった。また、どこへでも行けたし、時間も自由に行き来できるようになった。


グルグルグルグルグルグルグルグル。

頭は回って止まらない。
数学者なんてどうでも良いのに、ケーニヒスベルクの問題ばかりがきになる。『ポアンカレ予想』を読んだからだ。ジュンク堂天満橋店で面陳されていた本を本屋さんに教えてもらった。面白いよ、と。

頭の中でグルグルグルグル、ケーニヒスベルクの街を散策してみる。メビウスの環、クラインの壺ケーニヒスベルクに行かないで、ケーニヒスベルクを散策する。今よりも高い次元でないと理解できない出来事を、高い次元でもないのに考えている。

グルグルグルグル、ケーニヒスベルクを散策している。頭が止まらないように。世界が止まらないように。

ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者

ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者

グルぐるあーす

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