シューゲイザーと置賜盆地
妻の実家は、埼玉県行田市にある。
行田市は、2007年に日本最高気温を出した熊谷市に隣接する。(現在は高知県の四万十市の41℃が最高らしい。)
僕の生まれた山形県南陽市は、熊谷市に破られるまでの74年間、日本最高気温を保持していた、山形県山形市の南方にある。
行田市は関東平野の北部にあり、南陽市は置賜盆地の最北端にある。
行田市から見える山は遠く、ほとんど空と同化した影がうっすらと見えるだけだ。
南陽市から見える景色には、山が見えない角度はない。シューゲイザーさながら、下を向いて生活を、しない限り、山は目に入ってくる。
高校時代、僕は、陸上部でよい成績を上げれなかった。なせばなる、と上杉鷹山の教えに培われた風土で、成せずにもがいた。様々なところから、多くの助言を求めていた。ほとんどの偉人は、顔をあげろ、前を向け、と言った。未来は君の思うがままだ、と。
だから、前を見た。目の前に山はそびえていた。とても高い山だった。迂回しようにも、さらに高い山があった。僕は、山を乗り越えられると思えなかった。僕は下を向いた。
僕は下を向いた。そこには、ランニングシューズが2足あった。彼らは、地面に立っていた。右足を前に出す。ランニングシューズは30センチくらい、前に出た。もう少し力を入れて左足を前に出す。60センチくらい左側のランニングシューズは前に出た。
僕はよたよたと、2つのランニングシューズを交互に前に突き出した。その度に、体は上下した。肺は呼吸を苦しくした。顔は歪んでいただろう。
それでも、俯いた僕は、交互に前に出るランニングシューズを見ていた。無様だった。でもやめれなかった。気がついたら、僕は何Kmも走っていた。60センチくらいの幅しかないこの2つの足が、何Kmも前に運んだ。
先日、行田市の神社へ子供の七五三で詣でた。いつの間にか、子供は5歳になった。今、僕は関東平野の西部に住んでいる。山は影も形も見えない。よく晴れた日に辛うじて富士山が見えるくらいだ。
高校時代に僕が見た山は、ここにはない。ここからはどこまでも見通すことができる。まるで、未来さえも見えるようだ。
僕の子供は全速力で走る。前に向かって走しる。彼は下を向かない。遠い空を見る。
それでも、もし君が、この世界から愛を失ってしまったなら、下を向けばいい。俯いて、足を見たらいい。2つの足は、愛のない世界でさえも、君を未来へと連れて行ってくれる。ドラえもんのタイムマシンや、どこでもドアみたいな便利なもんじゃない。一回の動作でせいぜい、60センチくらいしか君を運ぶことができないやつだけど、君を未来へと連れて行ってくれる。
あの場所へ…希望の歌で悲しい歌の聴こえない場所へ。
理想ばかりよそおうばかり
悲しい歌の聴こえない場所へ
急いで
(スーパーカー「wonderful world」)
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて ケヴィン・シールズのサウンドの秘密を追って
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