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本のこと、はしること、山形県のこと。

本と本屋さんのことを中心に書こうと思ってます。走るのが好きです。山形県出身です。内容をちょっとづつ調整していってます。

会社から家まで、音楽を聴いて帰る

朝に出社してから、夜に退勤するまで、外に出なかった。
日が沈んで真っ暗になった外は、暑くて、蒸してる。日が沈んでも街は、まったく涼しくならない。

会社から駅までの下り坂、生暖かな空気に触れる。男の子と女の子が隣に並びながら、通り過ぎる。
また、一組通り過ぎる。

Yogee New WaveのClimax Nightを聴いている。
目が見えない、手のひらの触覚は、とても鋭いのだろうか。聴覚がイルカみたいに形を作るのだろうか。そんなことを考えていた。

Climax Night

Climax Night

  • Yogee New Waves
  • ロック
  • ¥150


目が見えなくとも、姿かたち色が分かる、ようなことを探し求め、コーラを飲み泣きじゃくった日々

そんな歌詞が耳に入る。
男の子も女の子も触れ合わない距離で、笑っていた。坂の下にはJRの駅が見える。出入りする電車の音がする。

建設中のビルの下には、髪の長い女の子なら、少しだけ髪が乱れる、だろうくらいの、柔らかな風が吹いた。
酒場には電灯が光り、賑やかな声がする。

耳に聞こえる歌詞が、目に見える景色をつくる。まるで、聴覚が作り上げた世界かのように。
窓ガラスに反射する光と投下する映像。脳裏には辿れない記憶が窮屈そうに息を潜めている。

曲が変わる。
She Tolks SilenceのTails of New Ageが流れた。駅構内から放たれた光が駅前のロータリーを照らしている。白とピンク色の提灯が無数に飾られていた。盆踊りの準備だろう。

Tales Of The New Age

Tales Of The New Age


英語で歌う彼女たちの声が、高校時代に聴いた、シューゲイザーみたいで、駅構内の蛍光灯が眩し過ぎた。うつむいて歩く世界は、とても小さくて狭かった。

乾いたギターの音が耳に鳴り響き、中原中也の『蛙声』を思い出す。

よし此の地方が湿潤にすぎるとしても
疲れたる我らが心のためには、
柱は猶、余りに乾いたものに感
はれ

頭は重く、肩は凝るのだ。

在りし日の歌―中原中也詩集 (角川文庫―角川文庫クラシックス)

在りし日の歌―中原中也詩集 (角川文庫―角川文庫クラシックス)



疲れた眼精疲労を擦り、自動改札を通り過ぎる。肌の露出した女性に目がいく。白いワイシャツを着た男性とぶつかりそうになる。電車の発車音がなり、階段を駆け足で登る。山手線の車両が見える。帰宅とは別の方向の電車の扉が閉まる。
階段を登る足を緩める。

また、曲は変わる。
安藤裕子のさよならと君、ハローと僕、が流れた。
山手線がやってきて、スピードを緩める。通り過ぎる窓ガラスに、顔が映る。顔は、断続し、上下に揺れている。
記憶が蘇る。どうでも良い思い出の光景がはっきりと映る。
関西へ出張へ行った日の夜、ビジネスホテルで売上を見ていた時、パソコンのディスプレイの光に疲れた目を休ませる。鏡に映る顔を見る。
冬の雪の降る頃だった。ホテルの下には客引きが溜まっていた。繁華街はきらびやかで、卑猥だった。

昔、好きだった女の子が、好きだ、といったマンガ本を思い出す。浅田弘幸の『眠兎』。単行本2冊の小品だったが、作中に中原中也の詩がちりばめられていた。その中に、『生い立ちの歌』もあった。

眠兎 1 (ジャンプコミックス)

眠兎 1 (ジャンプコミックス)

浅田弘幸作品集 2 眠兎

浅田弘幸作品集 2 眠兎


私の上に降る雪に
いと、ねんごろに感謝して、神様に
長生きしたいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔でありました

山羊の歌―中原中也詩集 (角川文庫―角川文庫クラシックス)

山羊の歌―中原中也詩集 (角川文庫―角川文庫クラシックス)



その最終連が引用されていたわけではなかったかもしれない。
サヨナラ、君。好きだった女の子と最後に別れた日、ベロベロに酔って、記憶にない。ハロー、僕。翌日は二日酔いで、頭が痛かった。

ホテルの窓から見る雪は、貞潔で、卑猥な街の明かりを覆い尽くそうとしていました。
その後、彼女は水商売でお金を稼いだ。結婚して子供が二人いる。

彼女の上に降る雪は、
いと貞潔でありました。


また、曲は変わる。
BUMP OF CHICKEN の車輪の唄が流れた。歌は思い出を連れてくる。
新海誠の『秒速五センチメートル』、桜が舞い散る最後のシーン。記憶が音楽と共に流れ、過ぎていく。一生懸命だったものが、すり減って、小さくなる。
新しかった物も錆びついていく。

車輪の唄

車輪の唄



高校を卒業して故郷から離れる前の日、同級生とドライブをした。
僕らは、麻雀をして夜を明かすつもりだった。一人暮らしをはじめるため、友人は一人ずつ故郷から去っていた。人数を集めようとしたら、3人しか集まらなかった。
僕らは、慣れない三麻をした。友人は、明日、お前が行ったら、もう麻雀できないな、と言った。
すぐに役が出来る三麻に飽きた僕らは、冷たい外に出た。外は真っ暗で、地面の白い雪がほのかに輝いている。
星はとても小さな光を無数に光らせていた。コンビニへ行こう、そう言って、三人で車に乗り込んだ。

夜明けまで、車を乗り回そうと話した。
午前三時。彼は横になって、僕らの寝息を聞きながら思案した、
舌で起こしたらよいものか、
それとも大きな叫び声で起こしたらよいものか。

真っ暗な、国道113号線、時たまトラックが通り過ぎていく。運転手を務める予定の友人は、ハンドルにもたれてねた。残された僕ともう一人の友人は、何も映らない国道を見て話していた。
いつの日か、また会おう、と。

次の日から、僕は一人暮らしを始めた。
大学を卒業すると、上京して故郷へは帰らなかった。道にはひっきりなしに車が通り過ぎ、真夜中でも光で明るかった。


また、曲は流れる。
Fishmansのいかれたbaby。
自宅の最寄駅に着く。改札を抜けると、蒸し暑さが戻る。
朝、妻と喧嘩をしてきた。
僕らはなんの解決もできないまま、黙りあい、問題を保留にしようとする。

いかれたBaby

いかれたBaby


いかれた君はベイビー。
悲しい時に笑うのは、
いつでも君のことだった。

僕らは笑顔を忘れて座りあっていた。
おやすみ、と彼女は言った。ああ、と答えた。
悲しい気持ちで笑ったなら、もっと悲しくなる。
彼女は寝室へ行き、そのままベットに横になる。僕は、そのまま風呂へ入り、携帯電話を触っている。