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本のこと、はしること、山形県のこと。

本と本屋さんのことを中心に書こうと思ってます。走るのが好きです。山形県出身です。内容をちょっとづつ調整していってます。

『オルフェオ』とエムズ書店みたけ店

ようやく、書き出せる。

マジックリアリズムによる呪いが、ブログを開かせる手間をかけさせた。

帰宅途中、江田駅に着いた時、リチャードパワーズのオルフェオを閉じた。はじめの45ページで、最後を想像することをやめる。表周りに書かれた説明も、推薦分も飾りになる。

目の前には二人の女性がいる。
彼女のうち1人は、虚空を見つめ、目的の駅に着くのを待っている。彼女は、カバンを手に持った。
彼女は、渋谷から電車に乗ってきた。各駅停車で約一時間かかる。座席に座り、眠ろうとしたが、眠れない。読みかけの本を忘れたからだ。

彼女は田園都市線の藤が丘駅と市が尾駅の間にある、一週間で一度しか止まらない駅の歩いて三十秒のとこに住んでいる。
藤が丘駅まで乗ってきた彼女は、改札にPASMOをかざし、通り抜ける。冷たい夜だった。身震いを一つして、空を見た。よく晴れている。月の光が神々しく輝いていた。にもかかわらず、星は見えなかった。光が多すぎて、光が見えないなんて、と心の中で思った。

国道246号線からパトカーのサイレンが聞こえてくる。彼女はツイッターで、藤が丘、事故、と調べる。手のひらから光が放たれ、彼女の顔を照らす。

鶴見川が見えてくる。遊歩道を少しだけ逸れる。高架橋の上を電車が走っていく。彼女は、扉を開き、ただいま、と言った。

父親が1人、テレビを見ていた。彼は、おかえり、と告げる。上着を脱ぎ、ハンガーにかける。寒いよ、外は、と父に告げた。彼は、彼女を見て、頷いた。

彼女の名前は、エズメ・エムズ。彼女の父は、岩手県花巻市にある株式会社まるかんの創業者の三男だと語っていた。たぶんそうではないだろう。彼女の家族が岩手県へ行ったことはないし、父の語る年表は矛盾に満ちている。

ショツピングモールで有名なイオンは岩手県進出を長い間失敗していたた。花巻市に本社を構えるまるかんが、イオンと真っ向勝負をし、進出を阻止していたと言われている。
しかし、2006年にイオンモール盛岡南が出店した頃から、イオンとまるかんとの構図は崩れてきた。その頃から、まるかんは業績が落ちはじめた。悪いわけではなかった。
エズメの父は、まるかんの子会社であるエムズ書店の社長をしていたんだ、と語っていた。
2010年にエムズ書店の社長の椅子を明け渡し、上京した、と彼は言った。

エズメの免許証には江図泉と書かれている。本名がエズメなのか泉なのかわからない。父はいつもエズメと言った。そして、苗字はエムズだと言う。
父は統合失調症を患っている、と医者は言ったが、普段の生活に何ら変わったことはない。自分のことを見失っていること以外は。

エズメはテレビを見ている父に向かって、もう寝なね、と言った。父は返事もせず、立ち上がると、もう寝る、と言った。
エズメは、天井を見た。家の中は何も聞こえない。天井は揺れている。電車が走り抜けているのだろう。彼女はそんなことを思った。父は、襖から顔を覗かして、お母さんは今日帰ってこないよ、と言った。エズメは、そう、とだけ答えた。

エムズ書店は盛岡の郊外にある。
エムズ書店は最寄駅から20分近くかかるが、駅には一時間に一本しか電車がこない。駅まで歩くより、駅舎で待っている方が長い。

東京の電車は待つことがない。
改札を入る。ホームへ行く。電車が来る。
チャイムが鳴らされる。ドアが閉まり、電車が発車する。
電車から降りた人の群れが、階段を降りる。

ここはどこか知っている人はいない。
とこかの僕は、電車で恵比寿へ向かい、藤が丘へ戻る。目の前に座った女性が、電光掲示板を眺めて、次の駅を確認している。
彼女はリュックの紐に手をかける。電車が止まるのを待つ。
扉が開く。電車から降りる人混みは階段へ向かう。彼女もまた、階段を降りていった。

オルフェオ

オルフェオ