読書をはじめるのにうってつけの日
小さい頃は家の中から出ないで1日を過ごすなんて、考えたことはなかった。今では、月の5日は室内から出ることなく過ごす。
もし、ナインストーリーズを読まなかったら、今どうしてたのだろう。少なくても山形にいただろうし、今の仕事にはついてはなかったと思う。
その日は本を読むにはうってつけの日だったんだと思う。ご飯を食べ終え、自室へ戻るため、階段を上がっていった。
インフルエンザで高熱を出してたので、ひょこひょことよろめきながら、布団まで辿り着いた。
高校3年間を陸上競技に費やした。最後の駅伝大会。対米沢工業戦間近だった。それなのに、インフルエンザにかかり体力を奪われてしまった。
笑うしかなかった。数日寝て過ごした布団のほとりには、何度も読み尽くされた週刊少年ジャンプが落ちていた。
誰にも捧げれない時間を持て余していた。布団の中で触れたことのない女の子のことを考えていた。愛らしき口もと、目は真っ黒。
一度も会話したことのない美少女のこと。電車で同じ車両になる女の子のこと。誰にでも起きる青の時代。
テディ、ページに印刷された活字の文字。誰かの名前なんだろうか。無造作に置かれた文庫本を手にしていた。
読み始めようとして何度も3行で飽きてしまった小説を手にしていた。
気がつくと夕方だった。
階下から声がする。読み終えた小説を布団の上に置いた。犬が田んぼさ逃げた、田んぼで犬ばつまえて、と祖母が叫んでいる。少しだけ体調は戻っている。階段を降りる。玄関から外へ出る。
周囲は薄暗く、鈴虫やコオロギの音がしていた。犬を捕まえた僕は、首輪につながった鎖を高く上げ、もう逃げるんじゃない、と犬に言った。
- 作者: サリンジャー,野崎孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
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