三歳の記憶
今週のお題「一番古い記憶」
祖父はまだ生きていたころ、三歳の記憶。いや、四歳だったかもしれない。
その日は、曇っていた。秋口だったように思う。田舎だったから、家の窓という窓は開け放たれて、涼しい風が家中に流れていた。
二階に階段で上がると、一番てっぺんに姉が座っていた。片付けられていないおもちゃや雑誌の類が、階段の横に重ねられている。
姉の所まで来ると、突然蹴られた。驚きと衝撃で階段から転げ落ちた。大声で泣いた。飼っている犬も鳴いていた。遠くでキジの鳴き声もした。
茶の間から祖母が駆け寄ってくると、事情を聞いた。
あの日、なんて答えたんだろう。
ただずっと泣いていたのかもしれない。前後の記憶も不確かで、突き落とされた理由が消えている。
今ではもう、祖母は年老いて記憶が定かではなかった。
先日、実家へ帰った折に姉に尋ねた。
どうして階段から突き落としたのか、と。
姉は答えた。たぶん突き落としたらどうなるか知りたかっただけだと思う、と。
ああ、あほんとに怖かった
なぜだか不思議に怖かった
せれでわたしはひとしきり
ひと泣き泣いて、やつたんだ
(中原中也「三歳の記憶」)
得体の知れない不思議な恐怖が、三歳の記憶にぶら下がってる。
結局、大人になっても不思議な恐怖は助長しただけだった。何も聞かなきゃよかったよ。
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