対、満員電車戦の前夜
本日も満員電車。
朝も夜も満員電車に揺られる。
日常を豊かに、っていう人たちの素敵な言葉、分かるよ、分かる。
たださ、でもさ、日々繰り返される満員電車に対抗できるキラキラワードって朝目覚めて見つけられるほど、人生がキラキラ輝いてるのはごく僅かだよ。Facebookに水着ギャルと一緒に写真撮ってる黒焼の男たちだって、満員電車に日々揺られたら太刀打ちできないってもんさ。あの煉獄に打ち勝とうなんて、身の程知らず。皆目見当つかない。
満員電車ほど身体に堪えるものはなかなかない。
そうさ、満員電車でに揺られる。今日も、きっと明日も。電車が駅に止まる。
人波が押し寄せる。手すりにつかまった手のひらに力がこもる。背中に柔らかい感触と良い匂いを感じる。
すこしだけ振り向く。美しい女性と視線が合う。申し訳なさそうにまばたきで会釈する。彼女の胸が背中に押し付けられる。柔らかな膨らみ。彼女はうっと声を出す。その声は小さい。儚い。それでも耳元には聞こえる。それほどまでに近い距離だから。
無防備に押し付けられた、柔らかな胸の抑揚を満員電車で感じれるなら、日々の美しさに応えられる。毎日は美しい。美しさに満ちている、と。
現実?今日の出来事を聞きたいと、Facebookの友達はいう。つまり、昔から僕のことを知っている奴ら。Facebookじゃないなら、僕は胸の膨らみなんかさらさら話さない。よく聞いたらいいさ。僕のリア充を。
後ろに佇むのは。30代から40代の小太りの男。彼らが薄い汗をかいている。彼らの熱を帯びている。彼らもまあ、うっとかっていう。それは、昨日のアルコールが胃袋から湧き出る音。
彼らは、硬い脂肪で覆われている。アルコールが抜けない息を吐きつけている。ため息をはいたりもする。
汗をかいた体臭は、鼻を背けても届く。彼らは手すりにつかまり、目を瞑る。
堂々とした態度。電車が揺れても彼らは動かない。常に体を押し付けてくる。重力に従順、誰よりも。
電車に乗るといつも、男に挟まれる。
これは、きっと気のせいじゃない。
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