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本のこと、はしること、山形県のこと。

本と本屋さんのことを中心に書こうと思ってます。走るのが好きです。山形県出身です。内容をちょっとづつ調整していってます。

近くにあるものに眼差しを向けること難しい。触覚はいつもど近眼

身近にありすぎて、その存在の大切さが分からなくなることがある。

山形にいた頃、食卓に並んだ料理の味は、当たり前の景色だった。毎日繰り返し出される質素な料理と、部活で飢えた思春期の僕とのパワーバランスは大きく崩れていた。
部活から帰ってくると、夜の9時を過ぎていることが多かった。彩りの少ない食事を、一人で食べていた。

父は夜遅くまで仕事やお酒を飲んでいた。平日の夜に父の姿を見たことがほとんどない。
共働きをしていた母は、家のことで忙しく、ほとんど茶の間でテレビを見たことはなかった。
祖母は、いつも茶の間でテレビを見ていて、小言を言っていた。年の離れた妹は自室で遊んでいたようだ。
姉もまた、自室で遊んでいた。

東京で過ごすようになると、少しずつ当たり前だった光景を思い出すようになる。

こないだ山形に帰省した時、同級生と飲んだ。僕らはハンバーガーやラーメンが大好きだった。県内には吉野家がなくて、卒業旅行に新潟の吉野家へ行って牛丼を食べた。
近くにはファミリーレストランもなかったから、無人駅でいつまでもたむろしていた。

彼は、蕗の煮浸しと酒があれば、もう飯食わんたっていいな、と言った。
僕らは、んだな、んだな、と頷いた。
ちっちぇころ、んまぐねな、って思ってだったけど、あんなに贅沢ねえな、と。

彼はまだ山形に住んでいる。
彼の食卓には、山菜もぬか漬けも、当たり前のように食卓に並ぶ。質素で色彩に乏しいと思っていた献立は、とても彩りに満ちていた。

だし、という郷土料理がある。
僕はその料理の名前を知らなかった。いつも気がつくと食卓に並んでいた。好きでも嫌いでもなく、ただあればつまんでいた。

気がつくと、だしの景色は東京になかった。帰省した時、たまたま出てきただしを食べて、美味しいと思った。ビールがすすんだ。

それからテレビ放送で、だし、と言う名前を知った。
夏になると、いつも食べたくなる。

母につくり方を聞いたら、いっづも適当につくってだから、わがんねなぁ。キュウリとナスば刻めばいいんねなが?と言われた。
僕が食べてたのは、キュウリとナスの刻んだサラダだったんだろうか。

もの食う本 (ちくま文庫)

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